【M&Aの基礎概念シリーズ】 第2回:償還優先株(Redeemable Preference Shares):投資家にとっての「往復切符」

2026年02月25日 作成

前回の「M&Aの基礎概念」シリーズでは、アーンアウト(Earn-out)の概念とその活用方法について解説しました。今回は、多くのM&A取引で重要な役割を果たす金融手法の一つ、償還優先株式(Redeemable Preference Shares:RPS)についてご紹介します。

優先株式と償還優先株式の違いとは?

優先株式(Preference Share)とは何か?

Lawpath(ローパス)によると、優先株式(Preference Share)とは、普通株主に先んじて配当を受け取る権利など、特定の優先的権利が付与された株式を指します。その性質上、リスクを回避しつつ安定的なリターンを求める投資家にとって非常に魅力的な選択肢となります。

優先株式の最大の利点は、収益の安定性にあります。インカムゲインを重視する投資家にとって、優先株式は極めて有効な投資手段です。また、企業の資本構成においても重要な役割を担っており、普通株主の議決権を希薄化させることなく、円滑な資金調達を可能にするという側面も持っています。

昨今、世界的な下落相場(ベアマーケット)が続く不安定な市場環境下において、長期的に堅実な利回りを確保するための有力な手段として、優先株式に注目する投資家がさらに増加しています。


償還優先株式(Redeemable Preference Shares)の定義と特徴

償還優先株式(Redeemable Preference Shares)とは、発行会社が将来的に株主から買い戻す権利(または義務)を持つ、特殊な性質を備えた優先株式のことです。

簡潔に言えば、あらかじめ合意された期間が経過した後、設定された価格で会社が投資家から株式を「払い戻す(償還する)」仕組みです。なお、一度償還された株式は、原則として失効(消却)扱いとなります。

このタイプの株式を保有、あるいは投資検討する際には、以下の特徴を正しく理解しておく必要があります。

・議決権の制限

原則として、株主総会における議決権は付与されないか、あるいは極めて限定的な範囲に制限されます。

・配当および残余財産分配の優先順位

普通株主に先立ち、優先的に配当を受け取る権利を有します。また、万が一の解散時における出資額の返還(還付)についても、普通株主より高い優先順位が認められています。

・「償還」という出口戦略の確定

最大の特徴は、投資契約で定められた期日や条件に基づき、株式が「償還(Redeem)」される点にあります。投資家にとっては、あらかじめ出口(イグジット)が設計された金融商品としての側面が強くなります。

償還優先株式がもたらす戦略的メリット

投資家にとっての「安全な出口(セーフティネット)」

すべての投資案件が必ずしも成功するとは限りません。償還優先株式を活用することで、投資家はIPO(新規株式公開)を待つことなく、あるいは投資ポートフォリオに長期間資金が拘束されるリスクを避け、計画的に資本を回収することが可能になります。

スタートアップの「早期出口圧力」を軽減

投資家から早期のIPOや身売り(M&A)を迫られるプレッシャーを和らげます。この償還メカニズムにより、企業側は自律的に再交渉を行い、経営権を維持しながら成長スピードをコントロールする余地が生まれます。

投資家と発行体、双方の利害バランスの最適化

投資家は「資本回収の権利」によって元本が保護される一方、企業側は「議決権の即時の希薄化」を抑えながら成長資金を調達できます。双方にとってリスクとリターンのバランスが取れたストラクチャーと言えます。

複雑なM&Aにおける「ハイブリッドな戦略ツール」

完全買収の前に「試験的な投資」を行いたいケースにおいて、この株式は非常に有効です。経済的利益を確保しつつ、事業シナジーが期待に届かない場合には資金を引き揚げる(償還する)という選択肢を残せるため、条件付きの戦略的投資として機能します。

代表的なケーススタディ:SoftBank × WeWork

米国のスタートアップ界でかつて「成長の象徴」とされたフレキシブルオフィス大手、WeWork(ウィーワーク)。ソフトバンクは同社に対し、ビジョン・ファンドを通じて2017年から2019年にかけて計100億ドル以上を投じ、その企業価値を一時470億ドルにまで押し上げ、筆頭株主となりました。

普通株式が抱えるリスク

しかし、この投資の半分以上は普通株式(Common Shares)によるものでした。普通株式には、これまで述べてきた「優先株式」や「償還権」のような保護条項がなく、以下のリスクを直接抱えることになります。

・有事における優先権の欠如:

企業が経営危機に陥った際、資産分配の優先順位が極めて低い。

・元本保証メカニズムの不在:

投資元本を保護するための法的スキームが存在しない。

・償還スケジュールの未設定:

あらかじめ定められた資金回収(償還)のタイミングがない。

・固定的な支払い義務のなし:

優先配当のような、定期的なリターンを保証する義務がない。

・ダウンサイドにおける出口の制限:

業績悪化時において、投資家側から一方的に資金を引き揚げる権利が認められない。

WeWorkの破綻において、ソフトバンクは筆頭株主として最大の損失を被ることとなりました。

償還優先株式を選択したら

では、もし同社が普通株式ではなく償還優先株式(RPS)を選択していたら、どのようなメリットを享受できていたのでしょうか。

・投資元本の保全(ダウンサイド保護)

RPSには「償還価額(Redemption Value)」が設定されています。ソフトバンクは、資金が普通株式として「塩漬け」になるのを避け、合意された条件に基づきWeWorkに対して出資持分の買い取りを請求する権利を行使できたはずです。

・有事における残余財産分配の優先権

法的整理(倒産)の際、普通株主の弁済順位は最後尾となります。一方、RPS保有者は普通株主に優先して分配を受ける権利があるため、WeWork破綻時においても、普通株式よりはるかに高い回収率を確保できていた可能性があります。

・経営権のバランス維持と希薄化防止

創業者アダム・ニューマン氏が絶対的な議決権を保持していたことは、ソフトバンクによるコントロールを困難にしました。RPSであれば、ソフトバンクは不必要な「権力争い」にリソースを割くことなく、議決権を制限しつつも経済的利益(リターン)を確保するという、よりスマートな関係性を構築できていたでしょう。

・固定配当による定期的なキャッシュフロー

WeWorkが赤字を垂れ流し続ける中、普通株主であったソフトバンクは何も得られませんでした。固定配当付きのRPSであれば:

 ・毎年一定の利回り(イールド)を確保できた。

 ・資金回収をIPO(新規株式公開)だけに依存するプレッシャーを軽減できた。

・柔軟な「脱出戦略(エグジット)」の構築

RPSは通常、以下のオプションを組み合わせて設計されます。

プット・オプション:投資家による買い取り請求権

コール・オプション:発行体(会社)による買い取り権利

もしこのメカニズムがあれば、WeWorkの成長が持続不可能であると判断した早い段階で、ソフトバンクは早期エグジットを選択できたはずです。

結論

結果論ではありますが、この事例は、ボラティリティ(変動性)の激しいM&A案件において、償還優先株式がいかに「命綱(セーフティネット)」として重要な役割を果たすかを物語る典型的な教訓と言えます。 

Solara & Co:真のパートナーとして

Solara & Coでは、すべてのお客様や案件には、それぞれ独自の「ストーリー」があると考えています。時に、M&Aを成功に導く鍵は、単なる投資金額の多寡ではありません。資本構成をいかに戦略的に構築し、双方の権利と利益をどう最適化するか、その「仕組みのインテリジェンス」こそが、真の価値を生むと信じています。複雑なスキーム構築から戦略的アドバイザリーまで、貴社の次なる一歩を私たちが共に歩みます。

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