髙島屋のハノイ進出:ベトナムにおける日系小売投資の波が示すシグナル
2026年10月15日、髙島屋と子会社の東神開発は、Westlake Square Hanoi(WSH)内の商業ゾーン「ハノイ髙島屋S.C.」に、AEON SupermarketとMikazuki Onsen & Spaが大型テナントとして出店すると発表しました。同施設は2027年秋の開業を予定しています。
本稿では、ベトナムにおける髙島屋の戦略について公開情報を整理し、外国投資家にとって注目すべきシグナルを分析します。
創業約200年の髙島屋と海外での成長戦略
髙島屋は1831年に京都で創業した、日本有数の歴史を持つ小売グループであり、高級百貨店チェーンとして知られています。国内市場に加え、シンガポール(1993年〜)、上海(2012年)、ホーチミン(2016年)、バンコク(2018年)に出店しています。
海外展開の主な背景には、国内市場の厳しさがあります。日本の小売市場は成熟期に入り、重要な収益源であった中国人観光客も大きく減少しました。こうしたなか、髙島屋は東南アジアに成長の機会を求めており、なかでもベトナムは中間層・富裕層の急速な拡大から高く評価されています。

グループ戦略におけるベトナムの位置づけ
公表されている数値からは、髙島屋グループの計画においてベトナムの比重が明確に高まっていることがうかがえます。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 髙島屋ベトナムの業績(2026年2月期) | 売上高は41.8億円(前期比14.4%増)。営業利益は11.6億円(同17%増)で過去最高を更新し、累積損失も解消 |
| ベトナム事業の2031年利益目標 | 約100億円。小売以外では、東神開発が手がける商業・オフィス複合施設、教育施設、住宅などの事業が増益の大部分を担う見込み |
2031年のグループ全体の利益目標は約750〜800億円であり、ベトナム事業はその約12〜13%を占める計算になります。ベトナムは、現行の中期経営計画で重点投資する3つの成長ドライバーの一つに位置づけられています(他の2つは次世代型ショッピングセンターへの転換と金融事業)。ベトナムが「拡大市場」から、グループの「重点市場」へと位置づけを変えたことを示しています。
東神開発:ベトナム戦略の実行役
ベトナムにおいて、髙島屋グループは主に役割の異なる2社を通じて事業を展開しています。髙島屋ベトナムは小売事業会社として、ホーチミンの髙島屋を運営しています。一方、1963年設立の商業不動産会社である東神開発は投資会社として、プロジェクトの開発・保有・運営を担っています。これはシンガポールで成果を上げてきたモデルです。1993年開業のTakashimaya Shopping Centreを中核とする同国の事業は、現在、東神開発の事業利益の約4分の1を占め、同社は東南アジア展開の基盤と位置づけています。
東神開発は2008年にホーチミンに駐在員事務所を開設し、2012年にサイゴンセンタープロジェクトに参画しました。この最初の案件を起点に、投資ポートフォリオはオフィス、教育、住宅、F&Bへと広がり、現在はホーチミン、ハノイ、ハイフォンの3都市で事業を展開しています。
| プロジェクト | 所在地 | 用途 |
|---|---|---|
| サイゴンセンター(第1・2期) | ホーチミン | 商業・オフィス複合施設 |
| サイゴンセンター(第3期) | ホーチミン | 商業・オフィス複合施設 |
| A&B Tower | ホーチミン | グレードAオフィス |
| The Dewey Schools(タイホータイ、オーシャンパーク) | ハノイ | 教育施設 |
| The Loop by Takashimaya Group(旧Indochina Plaza Hanoi) | ハノイ | 商業・オフィス複合施設 |
| Lancaster Luminaire | ハノイ | グレードAオフィス |
| Royal Island(ブーイエン) | ハイフォン | 住宅 |
| Takahiro Corporation | ホーチミン、ハノイ | F&B |
| Westlake Square Hanoi | ハノイ | 商業・オフィス複合施設 |
Westlake Square Hanoi:投資戦略とハノイ小売市場における位置づけ
Westlake Square Hanoiは、スターレイク新都市(タイホータイ地区)の玄関口に位置します。同地区は多くの外国投資家を惹きつけているエリアであり、中央省庁の庁舎エリアや外交機関向けの用地を含む、ハノイの新たな行政中心地として計画されています。

[写真]Westlake Square Hanoiの完成予想図(提供:東神開発)
第1期の延床面積は約43,000m²で、商業ゾーン「ハノイ髙島屋S.C.」(地下1階〜6階)とオフィス(7階〜10階)で構成されます。核テナントは、ハノイ初出店となる髙島屋百貨店(Takashimaya Department Store)です。
その他の大型テナントは、AEON SupermarketとMikazuki Onsen & Spaです。本施設は都市生活者のための「サードプレイス」と位置づけられ、ショッピング、飲食、サービス、ウェルネスを一つの施設に集約するとともに、ベトナムの季節行事に合わせたイベントも展開する予定です。

[写真]東神開発とMikazukiが手がける、ハノイ髙島屋S.C.の都市型温浴施設(提供:Mikazuki)
2030年に4,500億ドルを目指すベトナム小売市場
ベトナムの小売市場規模は2025年に約2,690億ドルに達し、商工省は2030年に約4,500億ドルに拡大すると予測しています。外資の流入も急増しており、2026年1〜9月の外国直接投資(FDI)の認可額は前年同期比76.4%増の503.6億ドルに達しました。日本は現在、ベトナムにとって第3位の投資国であり、累計投資額は約790億ドル(2026年2月時点)にのぼります。
市場の魅力が高まる一方で、小売市場の競争も激しさを増しています。外資系グループに加え、地場企業も拡大を加速させており、WinCommerceは2026年に1,000〜1,500店舗の新規出店を計画しています。こうしたなかで日系小売の強みは、規模や価格ではなく、サービスの質、運営水準、そして買い物体験にあります。髙島屋がハノイのプロジェクトで選んだのも、まさにこの方向性です。
ベトナムで拡大する日系企業と長期的な展望
すでにベトナムに進出している日系企業は、より深く、より長期的な投資へと舵を切っています。髙島屋はハノイへ進出し、東神開発はオフィス、教育、住宅、F&Bへと投資分野を多角化しています。イオンは2026〜2030年のASEAN向け投資の約60%をベトナムに振り向ける方針です。
歴史ある日本ブランドの集客力を背景に、ハノイ髙島屋S.C.は、ベトナム初進出となる日系ブランドの玄関口となることが期待されています。東神開発も、ハノイのプロジェクトを通じて、ベトナム市場に初めて参入する多くのブランドとの協業を進めているとしています。
外国企業にとって、M&Aや合弁は、現地パートナーの資産、販売チャネル、ノウハウを活用することで、市場参入までの時間を短縮する手段となります。ベトナム企業にとっては、日本ブランドのサプライヤー、運営パートナー、あるいは出資パートナーとなる機会でもあります。
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