株式譲渡と事業譲渡の違いとは?比較と選び方を徹底解説
株式譲渡と事業譲渡の一番大きな違いは、取引の対象が『所有権(株式)』か『特定の事業・資産』という点にあります。
株式譲渡とは、対象会社の株式を丸ごと買主へ引き継ぐことで、経営権を移転させる手法です。手続きが簡潔で、個人の譲渡益に対する税率が約20.315%と低いため、後継者不在の事業承継やベトナム進出をはじめとする海外M&Aで最も一般的です。
事業譲渡とは、特定の事業部門や資産のみを選んで売買する手法です。簿外負債などのリスクを切り離せますが、契約の結び直しや許認可の再取得など手続きが煩雑になります。
M&Aを検討する際、頻繁に用いられる手法が「株式譲渡」と「事業譲渡」です。特に中小企業のM&Aや、成長市場であるベトナム進出に向けた現地企業の買収・出資実務において、どちらのスキームを選択すべきなのかは非常に重要な課題となります。
本記事では、M&Aの実務および税務の視点から、これら2つの手法の違いや特徴をわかりやすく解説します。
株式譲渡とは?
株式譲渡とは、文字の通り、売り手株主が保有する対象会社の「株式」を買い手へ譲渡することです。これは、事前に結んだ契約に沿って「買い手が対価を支払い、売り手が株式を交付する」という対価と株式の同時履行によって行われます。
国内の中小企業M&Aにおいて広く採用されている手法であり(博義, 2025)、買い手が過半数(50%超)の株式を取得することで、所有権とともに会社の経営権が買い手へ完全に移転します(監修:公認会計士, 2025)。
日本国内のM&Aのみならず、Solara&Coが専門とする日系企業のベトナム進出をはじめとしたクロスボーダーM&Aにおいても、手続きの簡便性から主要な選択肢の一つとして検討されます。
事業譲渡とは?
事業譲渡とは、対象会社が展開している企業の全部または一部を、買主へ売買・譲渡するM&A手法です。譲渡対象となる「事業」には、店舗や設備などの有形資産だけでなく、顧客基盤、ブランド、ノウハウといった無形資産も含まれます。
株式の移動を伴わないため、会社全体の経営権自体は移転しない点が株式譲渡との大きな違いです。法人そのものを残したまま、不採算部門や不要な負債を切り離して特定の事業のみを譲渡できるメリットがある一方、従業員との再雇用契約、取引先との契約変更、許認可の再取得などを個別に行う必要があるため、実務上の手続きは個別対応を要する傾向があります。
株式譲渡vs事業譲渡:徹底比較
実は国内M&Aの手法別割合において、事業譲渡(41.0%)と株式譲渡(40.8%)はほぼ半々のシェアを分け合っています(中小企業庁, 2018)。どちらの手法もそれぞれの強みがあり、状況に応じて高い頻度で使い分けられていることが分かります。
これらの2つのスキーム違いを一目で確認できるよう、実務・税務の観点から比較表にまとめました。
| 比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
| 取引の対象 | 会社ごと | 特定の資産・負債 |
| 目的 | 会社の経営権を獲得する | 特定事業の獲得 |
| 取引の当事者 | 売り手株主 ⇔ 買い手 | 売り手企業 ⇔ 買い手企業 |
| 取引主体 | 個人(株主)または法人 | 個人または法人 |
| 手続き | 比較的にシンプル | 個別契約の結び直す必要がある |
| 許認可・契約の扱い | 原則、そのまま自動継続 | 原則、新規取得・再契約が必要 |
| 簿外負債リスク | 買い手が丸ごと引き継ぐ | 買い手はリスクを遮断できる |
| 税金 | 所得税(約20.315%)または法人税 | 法人税(約30〜34%)+消費税 |

どちらを選ぶのか?
自社にとってどちらの手法が最適かは、M&Aの目的や自社の状況によって明確に分かれます。
「事業譲渡」が適しているケース
資産や負債の範囲を個別に指定できるため、柔軟な取引設計が可能です。
・買い手側がリスクを回避したい場合
承継対象を個別に特定できるため、簿外債務や潜在リスクの引き継ぎを回避できます。
・売り手側が法人を残したい場合
特定事業のみを売却し、会社組織自体を維持・存続させることができます。
・競業避止義務の制限に配慮する場合
会社法上の競業避止義務(同一・隣接地域での同種事業の禁止)が発生するため、売却後の同業再開には注意が必要です。
・特定の事業を切り離したい場合
複数ある事業のうち、特定の部門や特定の店舗など、不採算・サブ事業のみを切り離すことができます。
「株式譲渡」が適しているケース
各種契約や許認可を包括的に引き継げるため、スピード感のある取引が可能です。
・後継者不在による事業承継・会社売却を短期間で完結させたい場合
契約変更や許認可の再取得が原則不要なため、事業の継続性を保ちながらスムーズに経営権を移転できます。
・創業者利益の最大化や税務面のメリットを重視する場合
個人株主の場合、売却益に対する課税が一律約20.315%(申告分離課税)に抑えられます。また、条件を満たせば繰越欠損金を買い手側へ引き継ぐことも可能です。
・売却後に同種事業へ再参入する予定がある場合
会社法上の法定競業避止義務が当然には発生しないため、売却後の新たな事業展開において自由度が高まります。
・会社全体の価値・取引規模を最大化したい場合
すべての資産および事業を包括的に承継するため、単一事業のみを対象とする事業譲渡よりも取引金額が高くなる傾向があります。一方で、不採算部門を持つ企業においては、収益性の高い事業のみを特定して事業譲渡する方が、結果として株式全体の価値を上回る対価を得られるケースもあります。
・クロスボーダーM&Aで現地の許認可や商権をそのまま活用したい場合
現地法人を丸ごと引き継ぐことで、ベトナム等の海外進出時にもスムーズな立ち上げが可能となります(※ベトナム進出における株式譲渡の詳しいメリットについては、こちらの記事をご参照ください)。
まとめ
M&Aにおいて、手法の選定は創業者利益や手続きのスピード感に直結する非常に重要なポイントです。
会社全体を丸ごと引き継ぎ、手続きも簡潔な株式譲渡と、特定事業のリスクを遮断して売買できる事業譲渡。双方のメリット・デメリットを正しく理解し、自社の成長戦略やパートナー企業との関係性に合わせた最適なスキームを選択しましょう。
出典
中小企業庁(2018)「第2部 第6章 第2節 M&A実施企業の実態」『平成30年版 中小企業白書』 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_6_2_3.html
梶博義(2025年12月25日)「事業譲渡と株式譲渡の違いとは? 中小企業M&Aで多用される2手法の判断軸を解説」M&Aキャピタルパートナーズ https://www.ma-cp.com/about-ma/business-transfer-and-stock-transfer/
マネーフォワード クラウド(2025年9月9日)「株式譲渡と事業譲渡の違いは?目的や税金などを解説」(公認会計士 監修) https://biz.moneyforward.com/ma/basic/1117/
株式会社マクサス・コーポレートアドバイザリー(2025年2月7日)「株式譲渡M&Aと税金の基礎知識」 https://maxus.co.jp/columns/7918
☎️ Solara & Co. では、貴社の目的に応じた最適なスキームのご提案から、ベトナムをはじめとするクロスボーダー M&A の複雑な実務支援まで包括的にサポートいたします。手法の選択や海外進出に関するご相談は、ぜひ当社へお気軽にお問い合わせください。
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